【公式】めざせ!ST(言語聴覚士)

言語聴覚士インタビュー

言語聴覚士インタビュー

言語コミュニケーションの専門家として、一人ひとりの「できる」を引き出す

泊 由美 医療法人社団涓泉会 山王リハビリ・クリニック
医療 成人 就労支援
泊 由美

「意思を汲みとりたい」というもどかしさからSTの道へ

私が言語聴覚士を目指したきっかけは、米国滞在中のある出会いにあります。神経発達症のある一人の少年と知り合ったのですが、言葉の壁以上に、どうコミュニケーションをとったらよいのかが分からなかったのです。「何とか意思を汲みとりたい、理解したい」―その悔しさともどかしさを持ったまま帰国したのち、言語聴覚士という資格があると知り、この仕事を志すことになりました。

現在は地域のクリニックで、病院での入院リハビリテーションを終えて在宅に戻られた方々の、「生活期」におけるリハビリテーションと療育に従事しています。障害や疾患により脳の機能が働きづらくなり、生活が困難な方々が対象です。外来リハビリテーションでは高次脳機能障害のある方々への個別訓練を中心に行い、通所リハビリテーションでは言語障害のある方々に対する集団コミュニケーション訓練を実施しています。ほかにも、地域住民への介護予防事業や、就労継続支援B型事業所でのサポートなどにも携わっています。

「これならできる」という自信が、回復への光になる

医療現場において、私たち療法士に求められるのは「伴走者」としての役割です。リハビリテーションの効果を最大限に引き出すためには、その方のモチベーションや目的意識をしっかりと引き出すことが重要です。そのため、日々「これならできる」「自分で生活できる」、そう自信を持ってもらえるような働きかけを意識しています。

言語聴覚士は、コミュニケーションや認知機能、摂食嚥下の専門家として、医療従事者、福祉サービスや行政職員などと協力しながら、チームで効果的なリハビリテーションをつくります。その中で、「ご自身でできること」を一つでも多く見つけていただくこと。それが、ご本人にとって大きな希望となると信じています。社会復帰後、「できないこと」に直面して落ち込まれる方もいらっしゃいますが、それでもさまざまなサポートを受けながら一歩ずつ前を向いて進んでいかれる姿に、いつも大きな感動と勇気をいただいています。

記憶障害という壁を越え、患者さんと共に勝ち取った復職

これまでで最も印象深い経験の一つに、重度の記憶障害のある方のリハビリテーションと復職支援があります。数分前の出来事も忘れてしまうという厳しい状況の中、障害者雇用枠での就労を目指しました。

しかし、現実は甘くありません。企業側にジョブコーチ制度を提案しても理解が得られなかったり、要求水準の高さからトライアル雇用が打ち切りになったりと、ご本人と一緒に何度も挫折感を味わいました。
それでも諦めず、就労移行支援事業所と連携を図りながら雇用主側への理解を粘り強く求めた結果、最終的には障害者雇用枠での就労に成功。積極的に情報提供を行い、職場への理解を促すことで、就労継続が実現するケースもあるのだと、この事例を通して学びました。

少しでも充実した生活を送れるように

私が患者さんと接する上で大切にしているのは、できていることを最大限に活かし、その方のやりたいこと、挑戦したいことを引き出すことです。そのためにも、その方の状況や気持ちを想像し、言葉かけ一つひとつに気を配ることを心がけています。

印象に残っているのは、全失語と高次脳機能障害のある方への支援です。退院後、行政職員からは施設入所を提案されていましたが、在宅での生活を選択され、外来リハビリテーションや自立訓練、何よりご家族の献身的なサポートがあり少しずつ回復されていきました。お一人で好きな映画のDVDを買いに行かれたり、感情が動く場面で思わず言葉が出たりと本来のご自分らしさを取り戻される場面を目にしたとき、人間の脳が持つ回復力の大きな可能性を感じました。

当事者の居場所をつくる活動にも力を入れたい

現在、私は地域での活動にも力を入れています。特に失語症の方は、言葉の壁があるために自ら声を上げにくく、社会や家庭で孤立してしまいがちです。そのため、障害を負った方の活動の場や仲間を増やす働きかけは特に必要だと感じています。

国も「失語症者向け意思疎通支援事業(※)」をスタートさせましたが、地域格差など課題はまだ山積みです。障害を負った方の多くは社会からの偏見や理解の欠如と闘っているため、当事者の方々が集える場をつくり、社会にその存在を知ってもらうこと。そして、超高齢社会において、誤嚥性肺炎やフレイル(虚弱)を予防するための啓発活動を行うこと。これらも地域における言語聴覚士の重要な使命の一つだと思います。

私自身、言語聴覚士として活動する中で、人とのつながりやネットワークの大切さを実感する場面は多々ありました。医療機関のほか関連する事業所や企業、学校などとの連携がとれ、当事者の方がしたいことを成し遂げられたとき、非常にやりがいを感じます。

※失語症で意思疎通が困難な方に対し、コミュニケーション支援を行う支援者を派遣する国の事業

「他人事」を「自分事」に変えられる社会へ

言語聴覚士を目指す方々には、まず「興味を持っていただきありがとうございます」とお伝えしたいです。私自身未熟なところが多いですが、もし私が言語聴覚士からリハビリを受ける立場であれば、技術はもちろん、心の動きを汲み取る共感力を持ち、柔軟に対応してくれる言語聴覚士と出会えたらうれしいなと思います。

病気や事故による苦痛は、決して他人事ではありません。誰もが突然、当事者になる可能性があるものです。だからこそ、それを自分事として捉え、支え合える気風が社会全体に広がってほしいと願っています。言語聴覚士の同志として、いつかご一緒できる日を楽しみにしています。

ある一日のスケジュール

Schedule
  • 08:45
    朝礼
  • 09:00~
    外来リハビリテーション

    3~4名を担当

  • 12:20~
    休憩
  • 13:35~
    多職種カンファレンス

    症例検討・情報共有

  • 14:00~
    外来リハビリテーション

    4~5名を担当

  • 18:00
    業務終了