言語聴覚士インタビュー
最期まで食事を
楽しんでもらうために
豊田 恵美
特別養護老人ホーム「白楽荘」
特別養護老人ホームのST(言語聴覚士)だからこそ出来るサポートを心がけている
私は特別養護老人ホーム「白楽荘」に勤務しています。施設の利用者さんは主に高齢の方で、ご病気による障害をお持ちの方や、認知症によって会話や食事が困難になってきている方の食事をサポートしています。
言語聴覚士が特別養護老人ホームに在籍しているというのは珍しいケースで、なにか特別養護老人ホームの言語聴覚士ならではのサポートができないかと日々考えています。
例えば、高齢になると誤嚥性肺炎で亡くなる方が多く、これを少しでも減らそうと、独自にデータを集め、発症リスクを抑えるという努力を続けています。[注1]
言語聴覚士として大切なのは、誤嚥性肺炎の発症リスクを抑えるだけでなく、少しでも美味しく食事を摂れるような工夫。この点も意識して、利用者さんをケアしています。
[注1] 平成29年の主な死因別死亡率の割合において誤嚥性肺炎は2.7%
厚生労働省 平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況
介護福祉士と連携して生活のなかにリハビリを採りいれていく
私が務めている特別養護老人ホームを利用している方は、嚥下障害を抱えている方が多く、そのなかには、身体に麻痺がある方もいらっしゃるため、リハビリを行う必要があります。
一般的に言語聴覚士がリハビリを行う際は、理学療法士、作業療法士と協力するのですが、「白楽荘」は特別養護老人ホームということもあって、介護福祉士と一緒に利用者さんのリハビリに臨んでいます。
リハビリというと、病院のように、一対一で20〜40分ほどの時間で行うイメージですが、ここでは、「生活そのものにリハビリテーションを取り入れる」というスタンスをとっています。そのため私は、リハビリの要素を日常生活に落とし込み、それを介護福祉士にアドバイスをしています。
会話でなくとも通じるコミュニケーションにやりがいを感じた
以前、病院に勤務していたときは、リハビリの際に患者さんから「ありがとう」と言っていただく機会が多くありました。
ですが、「白楽荘」の利用者さんは認知症の程度も重く、なかにはほとんどコミュニケーションが取れない方もいます。そのような利用者さんでも、関わっていくうちに、私の頭を撫でてくれたり、手をギュッと握ってくれたり、微笑みかけてくれたりと、その方なりのコミュニケーションで最大限応えてくれていることがわかりました。このことに気づいたときに、この仕事、しかも特別養護老人ホームの言語聴覚士としてのやりがいを感じました。
困難もコミュニケーションで乗り越える
日々、言語聴覚士としてのやりがいを感じる一方で、苦労を感じることもあります。私の場合、特別養護老人ホームにいる数少ない言語聴覚士ですので、職員の方や利用者さんのご家族にも、言語聴覚士の仕事を理解してもらうところからスタートしました。このときも、コミュニケーションとして、毎日利用者さんの状況や状態を報告して、徐々に関係性を築きあげていきました。
STに憧れたのは大学生のときに目にした子供の成長
言語聴覚士という仕事を知ったのは、大学生の頃。当時、教育学部に通っていて、そこで自閉症のお子さんと接する機会があったのです。この出会いが言語聴覚士を目指すきっかけといえます。自閉症のお子さんを日々観ていくうちに、発達も伸びはじめてく姿を目の当たりにして、正直驚きました。よくよく聞くと、そこに言語聴覚士が関わっていることを知り、この仕事の存在、そして憧れを抱くようになりました。
それからというもの、実習やボランティアで自閉症のお子さんと関わらせてもらう機会を増やしていきました。
少ない参考書を片手に独学で言語聴覚士養成校の門を叩く
大学卒業後、夢を実現させるため言語聴覚士の養成校に入学しました。大学では言語聴覚士になるための勉強はしていないので、養成校入学にあたっての受験勉強は、当時そこまで出回ってなかった言語聴覚士の参考書片手に完全独学。大学4年生となると、まわりは就職活動をはじめて、その状況でも「STになる」というモチベーション保つために、自分でアポを取って現役の言語聴覚士に会いに行っていました。
当時はSNSがないので、情報交換できる場も限られていました。そのため、言語聴覚士を目指す人同士予定を合わせて集まって勉強会を続けていました。今は言語聴覚士に関する情報や参考書も増えているので少し羨ましくもあります。
“終の棲家”であるからこそ食事の楽しみを味わってほしい
特別養護老人ホームは、利用者さんのうち高齢の方がほとんど。そのため、日々、命の現場にいると自覚しています。このような現場にいるからこそ気づくのですが、利用者さんも、そのご家族も、最期の最期まで「口から食べたい」「口から食べさせたい」という希望を持っていらっしゃいます。
そのため「この希望をどう叶えていくか」ということを常に意識しています。希望を叶えるのは、私ひとりでは難しいところもあります。介護士をはじめとした職員と連携をとって、ご本人やご家族が納得のいく最期を支えていきたいと思います。
ある一日のスケジュール
Schedule-
09:00出勤
電子カルテで前日の夜間の様子を確認したり、新規の方の情報収集、会議の予定等を確認します。
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09:30~ミーティング
各フロアの申し送りに参加します。ケアワーカーから嚥下評価の依頼がきたりします。その後、多職種によるミニミーティングを行い、そこで必要事項の確認など情報共有を行います。
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10:00~臨床
フロアを巡回しながら、入所者の状態を確認。嚥下リハや認知リハを行ったり、生活の中で能力の維持を図っていく為の助言をしたりします。
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12:00~臨床(入所者の昼食)
ここからが、一番忙しくなる時間帯。3フロアを行ったり来たりしながら、隈なく嚥下の状態を確認して回ります。最近変わった様子はないか?ケアワーカーが食事介助に困っていないか?など重要な情報をキャッチし、スタッフ間でコミュニケーションを取ります。
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13:00~記録業務
午前中に介入した臨床業務の記録をパソコンに入力します。記録だけではわかりにくい介助方法などについては、写真を撮りコメントを付けてフロアに伝える等の工夫もしています。
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13:30~昼休憩
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14:30~会議参加
委員会や担当者会議などに参加。入所者にとってより良い生活の場を提供できるよう多職種で話し合いを行います。
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16:00退勤
子育て中で時短勤務の為、一足早く退勤します。
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