言語聴覚士インタビュー
患者様の人生に寄り添う言語聴覚士として、一人ひとりの「生きる」を支える
德田 紀子 二ツ屋病院人と違う道を求めて、STの世界に飛び込んだ
高校生の時、将来の進路を考え始めた私の目に留まったのは、兄が携わっていたリハビリテーションという分野でした。当時、作業療法士として働いていた兄の姿を見て、医療の専門職に興味を持ち始めたのです。そんな中で出会ったのがSTという職業でした。当時はSTがまだ国家資格化されていない時代で、養成校も数えるほどしかありませんでした。しかし、「何か人と違ったことをしたい」という漠然とした思いが、この珍しい道を選ぶきっかけとなったように思います。結果として、これは私にとって最高の選択となりました。
支援を通じて、食べる喜びを取り戻す
現在、私は療養型病院と介護医療院で働いており、主に摂食嚥下のリハビリテーションに携わっています。急性期や回復期の病院から転院してこられる患者様の中には、様々な理由で食事を口から摂ることが困難になった方が少なくありません。私たちSTの重要な役割の一つは、そうした方々が再び食事を楽しめるようになるためのサポートです。「食べる」という行為は単なる栄養摂取以上の意味を持ちます。それは生きる喜びにも直結する、かけがえのない日常の営みなのです。
また、チーム医療の一員として、他職種との連携も欠かせません。看護師や介護士、栄養士など、様々な専門職と協力しながら患者様の支援を行っていきます。日々のサポートが、やがて大きな喜びにつながっていくのを目の当たりにできることは、この仕事の醍醐味といえるでしょう。
プロフェッショナルとして向き合う決断の重み
私たちの仕事は、時として患者様の人生に大きな影響を与えることがあります。特に印象に残っているのは、ある高齢の患者様との出会いです。主治医からの依頼で摂食嚥下の評価を行った際、誤嚥のリスクが非常に高いという結果が出ました。その評価結果を踏まえ、患者様にお伝えしたところ、最終的に胃ろうという選択をされることになったのです。
この経験は、専門職としての判断の重みを痛感させられる出来事でした。患者様やご家族の人生に深く関わる判断に携わる責任の重さを、身をもって学ばせていただいたのです。こうした経験を通じて、評価結果を伝える際の丁寧なコミュニケーションの重要性を実感しています。結果だけでなく、そこに至るまでの考えやプロセスもしっかりと共有し、患者様やご家族と一緒に最善の道を探っていく。それが私たちの大切な役割です。専門職として大切なのは、常に患者様の立場に立って考えることだと思うので、その方の生活背景や価値観を理解し、それを尊重した支援を心がけています。
災害時にも活きるSTの専門性
石川県言語聴覚士会の会長として、令和6年能登半島地震の際には災害支援活動にも携わりました。STは、コミュニケーションや摂食嚥下に困難を抱える方々への支援を通じて、災害時にも重要な役割を果たすことができます。避難所では、摂食嚥下障害のある方々への直接的な支援に加え、栄養士会と連携して食事形態の調整にも関わらせていただきました。
普段の臨床で培った「本人と環境の両方にアプローチする」という視点は、非日常的な状況下でも大きな力を発揮するのです。災害時には、言語や聴覚の障害によってコミュニケーションに困難を抱える方々が孤立するリスクが高まります。また、摂食嚥下障害のある方々は誤嚥性肺炎や低栄養のリスクにも直面します。そうした事態を防ぐため、一人ひとりの状況を適切に評価し、必要な支援につなげていく。それが私たちSTに求められる重要な役割です。また、災害支援の経験を通じて、平時からの備えと地域との連携の重要性を実感しました。STとしての専門性を活かしながら、地域の防災力向上にも貢献していきたいと考えています。
地域に根ざし、患者様の心に寄り添い続けたい
日々の臨床で最もやりがいを感じるのは、言語障害によってコミュニケーションが難しい方々との関わりです。私の声掛けに笑顔を見せてくださったり、挨拶を返してくださったりする瞬間。そして、その方の思いを理解して周囲のスタッフに伝えることができた時、その方と社会をつなげるお手伝いができたと実感できるのです。
STになってから27年が経ちますが、今後は「うちの地域にはこんなSTがいるよ」と地域の方々に自慢していただけるような存在になりたいと考えています。専門職としての技術や知識を磨くことはもちろん大切です。しかし、それ以上に大切なのは患者様に寄り添う心です。STが関われるのは患者様の人生のほんの一部分かもしれませんが、「あなたに出会えてよかった」と思っていただけるようなSTを目指して、これからも心を込めて支援を続けていきたいと思います。
ある一日のスケジュール
Schedule-
08:30始業
リハビリテーション科朝礼
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08:35~事務作業、評価・訓練業務準備
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08:50~摂食機能療法業務
入院患者様の評価・訓練・記録
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12:00~栄養科職員(管理栄養士、調理師)とソフト食の評価
※嚥下調整食を試食して、コンセプトに合ったものになっているか確認する
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12:30~休憩
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13:15~摂食機能療法業務
入院患者様の評価・訓練・記録
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15:00~カンファレンス
入院患者様のチームプランの検討
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17:00~病院業務終了
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18:00~県理学療法士・作業療法士会の代表と県リハビリテーションセンター職員との会議
この日の議題は復興リハビリ支援と地域リハビリ研修会について
※石川県言語聴覚士会会長として出席 -
20:00終了
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