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言語聴覚士インタビュー

言語聴覚士インタビュー

夢を追いかけた先で見つけた、自分だからこそできる支援のかたち

志磨村 早紀 武蔵野大学
教育 成人
志磨村 早紀

心を救ってくれた先生への憧れが、進路の道しるべに

聴覚障害の当事者として育つ中で、適切な支援に出会えずにいた私にとって、中学2年生のときの出来事は人生を大きく変える転機となりました。初めて言語聴覚士の先生とお会いし、その方との関わりで心が救われる体験をしたのです。それまで自分の聞こえの困難さを理解してもらえず、一人で抱え込んでいた悩みが、専門家の理解ある支援によって軽くなったことを今でも鮮明に覚えています。

この貴重な出会いから、まさに猪突猛進のように言語聴覚士を目指すようになりました。当時は言語聴覚士という職業への憧れが強く、難聴のある自分がこの仕事に就くことの大変さまでは十分に理解できていませんでした。しかし、その思いの強さが私を養成校まで導いてくれたのです。振り返ると、支援を受けられずに悩んでいた経験こそが、同じように困っている方々の力になりたいという強い動機につながっていたのだと思います。

従来とは異なるフィールドで花開いた、私ならではの専門性

養成校での学びは、自分自身と向き合う深い内省の時間でもありました。聴覚障害について専門的に学ぶことで、これまで経験してきた困難や感情を言語化し、整理することができたのです。そして同時に、難聴を抱えながら言語聴覚士として働くことの複雑さや困難さについても、現実的に理解することができました。

しかし、この気づきは決してネガティブなものではありません。むしろ、自分だからこそできる支援のあり方を模索する出発点となったのです。結果的に、一般的な言語聴覚士のキャリアパスとは異なる道を歩むことになりましたが、そこで出会ったさまざまな障害や困難を抱える方々との関わりは、かけがえのない経験となりました。

自分自身が障害の当事者であることは、強みである一方で、弱みとなることもあります。当事者としての共感と、支援者としての専門性の間で揺れ動きながら、その時々で最適なバランスを見つけていく作業は、想像以上に複雑で困難なものです。この答えのない問いと向き合いながら、迷いを抱えつつも、目の前の方との関わりを大切にしていくことが、私にとっての言語聴覚士としてのあり方なのだと考えています。

次世代の言語聴覚士に伝え続ける、洞察力と共感力の大切さ

現在は武蔵野大学専攻科の言語聴覚士養成課程において、聴覚障害を専門とする教員として活動しています。担当している業務は、学生への授業や研究活動、さらに学内外への啓発活動など多岐にわたります。研究では、聴覚障害のある方々がより生きやすくなる社会づくりを目指し、「聞こえの自己認識」や「聞こえの活用」、「コミュニケーション手段」の選択について取り組んでいるところです。

学生たちへの指導において私が最も重視しているのは、目に見えるものだけでなく、見えないものや、見えたものの裏側にまで思いを馳せる力を身につけてもらうことです。コミュニケーションのプロセスは、その多くが目に見えません。そのため、見えたものだけに頼って支援するのではなく、そこに至るまでの背景や過程にも目を向ける必要があります。学生たちには日々の学びを通じて相手の心の動きや困難さを理解するように努め、適切な支援を提供できる言語聴覚士になってもらいたいと思っています。

最初の困難を乗り越えた経験が、多くの当事者の支えに

言語聴覚士として働き始めた最初の職場で、自分の聞こえについて周囲にどう伝えるべきか悩んでいた時期がありました。そんな折、職場の方から「聴覚障害を知らない人も理解しやすいリーフレットを作成してはどうか」という提案をいただいたのです。この助言をもとに自分の「聞こえの説明書」を作成し、仕事でご一緒する方々にお渡しするようにしたところ、周囲の理解を得ることができ、職場でのコミュニケーションが格段にスムーズになりました。

この取り組みを他の方にも役立てていただきたいと考え、情報発信していく中で、多くの方から関心を寄せていただくようになりました。「そのような方法があったとは知らなかった」「作成過程で改めて自分自身と向き合うことができた」など、多くの前向きな反響をいただいています。言語聴覚士として直面した最初の課題への取り組みが他の方々のお役に立てていることは、とてもありがたく、嬉しいことだと感じています。

当事者と支援者、両方の視点から目指すより良い社会づくり

「聞こえにくさ」が可視化されないことで、周囲の理解を得にくいだけでなく、当事者自身もまた、自分の「聞こえ」を十分に把握できないことが少なくないと感じています。私自身も、自分の聞こえを把握できず、何が困難なのか、どんな支援が必要なのか、言語化できずに苦しい時期がありました。そこで、目に見えない「聞こえ」を、聴覚障害のある人自身にも、周りの方々にも、より分かってもらえるような支援や啓発が必要だと考えています。今後は、より多様な当事者にフォーカスした研究や発信活動に力を入れ、聴覚障害のある人々がより生きやすく、活躍できる社会になるよう取り組んでいきたいですね。

また、「聞こえ」や「コミュニケーション」に関心のある方は、ぜひ今後の進路やキャリアの選択肢に聴覚障害領域も入れていただけると嬉しく思います。「聞こえ」の専門家として、聴覚障害のある方の気持ちに寄り添い、専門的な視点から未来を一緒に考えていく。そんな言語聴覚士が増えていくことを、一当事者として、また一言語聴覚士として強く願っています。

ある一日のスケジュール

Schedule
  • 09:00
    都内中学校 難聴学級での専門家指導

    難聴のある生徒さんおよび保護者の方と面談をし、指導・助言を行います。

  • 12:00~
    休憩・移動
  • 13:30~
    学内業務

    授業準備・研究業務・打ち合わせなどをしています。

  • 18:00
    終了