言語聴覚士インタビュー

自分と同じ困りごとのある子どもたちの心に寄り添い、「できた」を一緒に喜びたい
鈴木 淳 ふじおか小児クリニック
当事者だからこそわかる、ことばの困りごと
私が言語聴覚士を志すようになったのは、大学時代の就職活動中のことでした。私自身、吃音があり、面接などで思うように話せず困っていた時に、友人から「吃音の訓練をする言語聴覚士という職業があるよ」と教えてもらったのです。その瞬間、心の中で「吃音のある子どもたちの気持ちを理解できるのは、同じ吃音を持つ私しかいない」という強い使命感が生まれました。自分の体験を誰かの役に立てることができる。そんな可能性に心が躍り、言語聴覚士への道を歩み始めました。
多角的な関わり方で、一人ひとりの可能性を最大限に引き出す
現在は小児分野を専門とするクリニックで、主に発達障がいや構音障害、吃音のあるお子さんの訓練を行っています。一人ひとりの得意・不得意をさまざまな角度から見つけ出し、その子に合わせた課題や関わり方を考えることが私の役割です。言語面では絵カードなどを用いて話す・聞く・読む・書くといった、ことば全般に働きかけ、認知面では積み木などを使って、見て考える力を養います。運動面ではブランコなどの遊具で身体機能を高め、学習面では年齢に応じた読み書きや数の修得を目指しています。
このような多面的な支援において私が最も重視しているのは、お子さん一人ひとりの個性と発達ペースを尊重することです。楽しい雰囲気の中で自然にことばや人との関わり方を学べるよう環境を整え、保護者の方と密に連携しながら、お子さんの可能性を最大限に引き出すことを目指しています。
隠すのではなく打ち明けることで得られた、周囲の理解

私は学生時代から就職後まで、長い間吃音と向き合ってきました。音読の順番が回ってくることへの恐怖感や、就職活動で思うように話せないもどかしさは、今でも鮮明に覚えています。特に就職活動では、吃音を隠そうとするあまり自分らしさを表現できず、面接では「しっかり話してください」と言われることもありましたね。周囲には当然のことでも、私は思うようにならないという現実がそこにはありました。
社会人になってからも、カンファレンスなどの場面は非常に緊張するものでした。しかし、ある時、周囲の方からアドバイスをいただき、思い切って職場で吃音のことを打ち明けることにしたのです。その結果、それまで感じていた緊張や不安が大幅に軽減され、吃音が出ても以前ほど気にならなくなりました。また、周囲の温かい理解と配慮により、電話対応などの苦手な業務をサポートしてもらえるようになったのです。この経験から、隠すのではなく受け入れることの大切さを学びました。
自分の歩みを重ねて考える、子どもたちの成長
自分自身の吃音に関する体験は、言語聴覚士としての仕事に大きく活かされています。当院にいらっしゃるお子さんは発達がゆっくりな子がほとんどで、その子なりの成長過程があるため、一人ひとりに合わせた訓練プログラムを組み立てることが大切です。しかし、ご家族の中にはお子さんの特性を十分に理解できず、焦りを感じている方も少なくありません。
そのような時、私は自身の体験をもとに「一生懸命努力しても、すぐにはできないこともある」ということを丁寧にお伝えし、ご理解いただけるよう努めています。また、吃音のあるお子さんが来院された際には、最初の面談で私自身も吃音があることをお話するようにしています。
「先生も同じなんだ」という安心感が、お子さんとご家族の心の扉を開く鍵となるのです。そうして築かれた信頼関係が、お子さんの前向きな姿勢を引き出し、支援をより効果的なものにしていると実感しています。
小さな成功が大きな成長へとつながった瞬間
これまでの経験の中で特に印象深いのは、新人の頃に担当した機能性構音障害のあるお子さんとの関わりです。「カ」行の発音ができないことで来院されたそのお子さんに対して、私はさまざまなアプローチを試みましたが、なかなか思うような成果が現れず、訓練の難しさを痛感していました。それでも、そのお子さんは、毎週私が出す宿題に真剣に取り組んでくれていました。
そんなある日の訓練中、ついに一度だけ上手に「カ」の音を発することができたのです。そしてその翌週には、なんと全ての「カ」行の音が完璧に発音できるようになっていました。ご家族の方にお伺いしたところ、前回の成功体験が大きな自信となり、家庭での練習に一層熱心に取り組んでくれていたようです。技術的な指導だけでなく、「治したい」という意欲を育むことの大切さを教えてくれた出来事でした。
理解の輪を広げ、吃音の現状を変えていきたい

吃音のある言語聴覚士として感じることは、吃音の認知度がまだまだ低く、理解されていないということです。吃音は自然治癒することもあり、症状の表れ方もさまざまなため、周囲の理解を得にくいという現実があります。そうした状況を変えていくためには、まず吃音を多くの人に知ってもらうことが大切です。そのために、今後も啓発活動に力を入れていきたいと思っています。
言語聴覚士を志す皆さんに伝えたいのは、何らかの困難や特性を持っていることが、この職業への扉を閉ざすものではないということです。むしろ、その経験こそが誰かの支えになる可能性を秘めています。私自身の経験が今の仕事に活かされているように、皆さんの経験も必ず誰かの役に立つはずです。どうか自信を持って、自分らしい言語聴覚士を目指してください。
ある一日のスケジュール
Schedule-
08:151日のスケジュールの確認とリハビリの準備
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09:00~午前のリハビリテーション開始
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12:00~書類業務
カルテ記載や計画書などの作成+教材作成
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12:30~休憩
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14:00~午後のリハビリテーション開始
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17:45~書類業務
カルテ記載や必要な書類等の記載
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18:00業務終了
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