言語聴覚士インタビュー
患者さんの不安を
少しでも取り除きたい
飯野 由恵
国立がん研究センター東病院
医師・看護師ら多職種と連携をとってリハビリを行う
私は国立がん研究センター東病院に言語聴覚士として勤務しております。対象となる患者さんは、頭頸部癌(口腔癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌など)の術後や放射線治療中、食道癌術後、また治療により筋力が衰えたことにより、飲み込みや話すことに問題が生じた方などです。
リハビリの方法は患者さんによって異なりますが、例えば、手術によって特定の組織を失われた方がいらっしゃいます。そのような方に対しては、残っている機能や神経を活かしつつ訓練を行います。
リハビリを行なう際は主治医と相談したうえで、必要に応じて、嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査などを行い、患者さんの飲み込みの状況を主治医と一緒に把握したり、食事形態について相談したりしています。
患者さんのなかには、食事を食べる際に適切な姿勢をとる必要があるため、そういった方に対しては看護師と協力して、安全に経口摂取をすすめられるように情報を共有していきます。また、患者さんの飲み込みの機能に適した食事を提供できるよう、管理栄養士に相談します。口腔内の環境も食べることには重要となりますので、歯科医師や歯科衛生士とも入れ歯や補綴物、口腔内の状態などの情報共有も行うなど、安全に食事をできるよう様々な職種と協力しています。
飲み込みに問題のある患者をサポートするために嚥下チームを立ち上げ
現在勤めている国立がん研究センター東病院は、リハビリを担当する言語聴覚士がこれまでいませんでした。
そのため、最初は言語聴覚士がどのような仕事をしているか、どのような仕事をするのかということを知ってもらう必要がありました。
例えば、摂食嚥下認定を受けた看護師、嚥下を診察する頭頸部外科医とで”嚥下チーム“を立ち上げ、嚥下外来を院内に設けて、病院医師や看護師たちに言語聴覚士の存在を理解してもらいました。
ほかにも当院は食道癌の患者さんも多く手術を行っているため、食道外科の医師とも直接話し合いをして、言語聴覚士がどのようなことをできるのかを伝え、食道癌周術期の患者さんのリハビリを担当させていただくなど、活動の幅を広げていきました。
患者さんのステップアップを身近でみられることがやりがい
いま主に携わっているのが、飲み込みと発声と難しくなった方へのサポートです。
がんの治療によって飲み込みに障害を抱えた方から、食事の形を変えることができた、栄養剤を減らせた、外食ができたなどと聞くと、ステップアップのお手伝いができたというやりがいを覚えます。
また、声を失った方から筆談せずに家族と話をすることができたと聞くときも嬉しいです。筆談の場合、どうしても細かいニュアンスまでは伝えきれないことがあって。そのようなコミュニケーションで苦労していた方が、電気式人工喉頭や食道発声、シャント発声といった新しい発声方法によって家族と会話をするといったように、周囲と意思疎通が図れるようになったと耳にすると、患者さん自身の頑張りを感じられ、嬉しく思います。
また「社会復帰できた」「仕事に戻れた」と言ってもらえることも良かったなあと思います。
大切にしているのは患者さんやご家族の気持ちになること
がんの治療は辛さを伴うため、患者さんの立場になって、その負担を理解することを大切にしています。さらに先を見通して、今後の経過予想をしっかりと提供するように心がけています。治療が終わった後も再発がないかなど不安を抱えながら過ごされる方も多くいるため、患者さんやご家族の不安な思いも確認しながら、リハビリを提供したいと思っています。
言語聴覚士を知ったきっかけは叔母の存在
私が言語聴覚士に興味を持ったのは、看護師だった叔母がきっかけです。叔母から言語聴覚士という仕事があることを聞いたことで、興味を持ち受験〜大学に入学して言語聴覚士に関する専門的な知識を学びました。
入学してからの勉強も大変でしたが、言語聴覚士は国家資格であるため、国家資格試験の勉強も大変でした。過去の問題を解いたり、グループ学習をしたりと、合格できるかプレッシャーを抱えながら頑張っていましたね。
まだまだ知識を探求していく
今は、がん専門病院に勤務しており、がん治療も日々進歩しているため、がんに関する専門的な知識を身につけていくというのは、自分の課題として持っています。ある程度の知識がないと、どのようなリハビリが最適なのかが分からないからです。
また、緩和期になったことで食事をとることが難しくなる患者さんやご家族が、食べたい/ 食べさせてあげたいというときに、どう向き合うかということも、多職種で相談し、なるべく患者さんやご家族が少しでも口にできてよかったと思ってもらえるような関わりができたらと思っています。
言語聴覚士からの一方的なアプローチではなく、患者さんにストレスを感じさせないコミュニケーションを意識しなければならないと考えています。
最期まで患者さんに寄り添う
適切なリハビリを行って患者さんの経過を良好に導きたいというのはもちろん、最期まで患者さんに寄り添える言語聴覚士になりたいと思っています。
周術期、維持期、緩和期といった患者さんにはさまざまなフェーズがありますが、いずれの段階においても、そして最期までしっかりと寄り添っていられる言語聴覚士を目指していきたいです。
ある一日のスケジュール
Schedule-
08:00出勤
予約患者の情報収集や新患依頼の確認
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08:30~科内ミーティング
当日の報告事項や新規患者の紹介を共有します。ミーティング後にスタッフルームの清掃などをスタッフ全員で行います。
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09:00~摂食嚥下看護認定看護師と患者の情報共有
当院は週1回摂食嚥下看護認定看護師の活動日が設けられているため、現在STで関わっている患者さんや嚥下内視鏡検査を行う患者さんの情報共有、勉強会の準備などを話し合っています。
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10:00~嚥下内視鏡検査:入院患者、臨床
入院患者さんの嚥下内視鏡検査を行い、検査終了後にベッドサイドやリハビリ室で訓練を行います。
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12:00~臨床(摂食状況の確認)
食事の初回や食上げをしたときに安全に摂食できているか、摂食条件を守れているのかなどを確認しに病棟を回ります。
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13:30~休憩
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14:00~嚥下内視鏡検査:外来患者
新規患者さんから継続患者さんまで、嚥下機能を評価し、評価結果を患者さん・家族に説明し、自宅での注意事項などを指導します。
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15:30~NST回診
週2回行われており、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師とともに、栄養状態について回診しながら病棟看護師と話し合います。
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16:00~臨床
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18:00カルテ
臨床を終えた後に診療記録を行います。
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