言語聴覚士インタビュー
言語聴覚士は自分たちが思っている以上に幅広く活躍できる
竹中 千尋 一般社団法人 是真会 長崎リハビリテーション病院入院中だけでなく退院後のその人らしい生活を想像して接する
私が勤務する長崎リハビリテーション病院は回復期リハビリテーションの専門病院で、脳卒中や転倒・交通事故による頭部外傷および四肢や脊椎の骨折、肺炎などによって心身機能、日常生活に障害が生じている患者さんが入院しています。
その中で私は、コミュニケーションに問題がある人、口から美味しくご飯を食べることに問題がある人たちに治療を行っています。
回復期のステージは発症から間もない全身状態が不安定な患者さんもおり、その場合は全身状態の安定化をサポートする対応を工夫します。さらに、家庭・社会復帰は回復期リハビリテーションの大きな目的であり、そのため、入院中から、常に、退院後の「その人らしい生活」を想像した関わりや工夫をしています。
「コミュニケーション」や「口から美味しくご飯を食べる」ことに障害を抱えるのは、人の人生や生活に大きな影響を与えます。このような障害の改善、あるいは障害をもたれた患者さんの社会復帰をサポートするために、医師や看護師、介護福祉士、理学療法士、作業療法士といった多くの専門職との協力が不可欠となります。
また、より効果的なサポートを行うために、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、放射線・臨床検査技師、福祉用具専門員との協力も大切にしています。
コミュニケーション障害の患者さんの意思がSTだけでなくスタッフや家族にまで伝わるよう になった
やりがいは、患者さんとの関わりの中で感じることが大きいです。たとえば、入院時点では、意思疎通が全く図れないほどの重度のコミュニケーション障害を抱えていた患者さんが、言語聴覚療法を施すうちに、少しずつ表情が変化するようになります。
患者さんの視線が少しずつ動くようになり、少しずつ声が出るようになる。そして、少しずつ患者さんの意思が汲み取れるようになる。この意思疎通が言語聴覚士のみならず他のスタッフや家族にまで及んだときは、とても充実感を覚えますね。
そして、その患者さんの回復がSTの予想通りであったとすれば、その充実感もひとしおで、仕事のやりがいにつながっているんだと思います。
気を付けていることは、私がひとりよがりに治療したことで、患者さんの目標とこちらの目標がずれてしまわないよう、常に、目の前の患者さんは何に困っており、何を望んでいるのか、私はその希望に沿った治療が出来ているのかに立ち返ることです。
職種と意見が異なっても互いを理解し患者さんに最適な方法を選択・実践する
患者さんへの対応をするなかで難しさを感じることは2つあります。まずは、実際に直接対応したことのない疾患や障害を有する患者さんに出会った時ですね。そういうときは、必死に、医師や看護師、先輩などにアドバイスを求めて、医学書で情報を集めて知識を養っています。
そして、担当する患者さんの、コミュニケーションや口から食べることに関しての予後予測や治療方針について、言語聴覚士と他専門職種で意見が異なった時。それぞれの専門職がその専門的な視点から分析し回復を予想しているので、お互いの意見を尊重し、十分に理解するようにしています。そしてそのなかで、関係者皆で、患者さんに最適な方法を選択・実践していくことが大切だと感じます。
言語聴覚士自身が役割を常に意識して共有していく
私たち言語聴覚士は、病院内の業務はもちろん、健康教室といった活動を通して地域にも出ていくことがあります。その際、地域住民や介護サービスを担当している方々とお会いしますが、どこまで、私たち言語聴覚士のことを知っていただけているのか不安になったり、あまり知られていないのではないかと心配したりすることもあります。
私は、言語聴覚士であっても、言語障害や嚥下障害への対応だけでなく、人が日常で行う移動や移乗、食事や排せつ、コミュニケーション活動や復学、復職支援など、多くのことについてもアイデアを提案することができると思っています。だからこそ、まずは、言語聴覚士自らが自身の役割について常々自覚し、それを共有して、他専門職や地域の方々にも情報発信していくことが必要と考えています。
苦労や難しさを乗り越えるために日々努めていることは、言語聴覚士の専門的な知識・技術を高めることです。知識・技術の向上が、根拠をもった意見につながり、自信をもって他職種と話ができることにつながると考えます。加えて、苦労を乗り越える私のとっておきの方法があって、それは仲間を作ることです。自分の良いところもダメなところも知っているからこそ、一緒に悩み、考え、時に叱咤される、そういった仲間の存在は、苦労も良い苦労に変えてくれますね。
大変だった長期の臨床実習を経たからこそ言語聴覚士で働きたいと強く思うようになった
言語聴覚士に興味を持ったのは、高校3年生の時です。当時、私は小学校の先生になりたいと思っていました。そんなある日、受験シーズンに学校の情報誌を眺めていたら、言語聴覚士のページを目にして、そこに書かれてあった仕事内容に興味を持ちました。そして、情報誌に書かれていることを具体的に知りたいと思って、進学を決意しました。学校に入ると、医学的な知識についての勉強も言語学などの勉強も想像以上に難しくて、途中で投げ出したくなることが多々ありましたね。とくに長期の臨床実習は、私には国家試験よりも難易度が高いものに感じられました。
ですが、その実習を経験したことで「この道でやっていきたい」と強く感じられたと思います。実際に現場で働く先輩方や患者さんが変化していく様子を目の前でみて感じたことで、「大変なことの先にある感動を得られるんじゃないか」と強く惹かれていきました。
勉強は得意・不得意がはっきりしていて、なかでも脳神経学に最も苦労しました。当初は脳がイメージできず、実際に臨床に出てからも、患者さんひとりひとりの脳画像を毎回、職種問わずさまざまな先輩たちに教えてもらい、教科書と格闘しながら学んだ思い出があります。今振り返ると、学生時代に、学校の教科書にとらわれず、実習先の先輩たちや学校の先生に、もっとわかりやすい教科書や勉強の仕方を尋ねても良かったですね。
自分 が思う以上に幅広く活躍できることを後輩に伝えて一緒に進んでいく
今の私の目標は、私たち言語聴覚士は自分たちが思っている以上に幅広く活躍できる場があることを、後輩たちにも理解・実感してもらい、そこに向かって一緒に進んでいくことです。コミュニケーションと一言で言っても非常に幅広く、話す、読む、書く、聞くだけでは成立しません。相手があって初めて成立します。
その相手に会うためには、食事も含めその人が健康であり続けること、自由に行動できることなどが必要になってきます。私たちはさまざまな知識を得て、言語聴覚士ならではの視点で考え、サポートしていけることがもっとあるはずです。もっと広い視野をもって、患者さん、ご家族、地域の人たちと接することのできる言語聴覚士になっていきたいです。
ある一日のスケジュール
Schedule-
08:00出勤
一日の業務準備
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08:30~病棟の朝の申し送りへの参加
患者さんに介入する時間の伝達、挨拶回りを行いながら、適宜、食事場面の介入や口腔ケア・排泄場面等で介助が必要な場面に介入
(当院は病棟配属制のため、出勤したら所属する病棟で始業・終業する、という流れになっています。また、ST科がないため、出勤している全STが毎日集まる、ということはなく、ST全員が集合する機会はSTの勉強会が開催されるとき等、限られています。
一方、同じ病棟の他職種とのコミュニケーションは病棟配属のため、活発に行うことが出来ています。) -
08:50~病棟リーダーミーティングへの参加
同じ病棟の他職種リーダーが集まり、入院中の患者さんの問題点の共有と問題解決のための案を出し合っています。
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09:00~外来患者さんの臨床業務
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11:00~入院日合同評価への参加
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11:40~入院患者さんの臨床業務
昼食場面の評価等も行います
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12:00~休憩
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13:00~VF検査への参加
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13:40~後輩の練習同席
後輩の患者さんの練習場面に同席し、一緒に評価・治療を行い、より最適な治療方法はないかを検討・実践しています
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14:40~入院患者さんの臨床業務
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15:20~記録
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15:30~カンファレンスへの参加
入院患者さん一人ひとりに毎月20~30分程度時間を取り、他職種で進捗状況の確認、目標設定、1ヵ月の取り組み等を協議しています。
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16:00~翌日のSTが介入している患者のスケジュール調整
各病棟のPT、OT、STリーダーが集合し、一斉に翌日に出勤するスタッフがどの患者さんに何時に介入するのかのスケジュールを作成します。
スタッフの状態や患者さんの状態を考慮しながら同職種・他職種リーダーと協議し、スケジューリングしています。 -
16:30~病棟の夕方の申し送り参加
日勤から夜勤へ切り替わる際の申し送りに参加し、特記があれば夜勤スタッフに情報提供します。
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16:40~アクティブホール掃除
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17:00~病棟のSTミーティング
同じ病棟内のSTで集まり、その日の特記事項の連絡を行います。
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17:10~記録
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17:30~院内勉強会参加
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18:15帰宅
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