言語聴覚士インタビュー
職種は言語聴覚士。しかし、時には作業療法士、時にはソーシャルワーカー、時には親戚のおじさんのように役に立ちたい
江村 俊平 医療法人社団永生会 広報連携・地域支援事業部マイナーな職業だった言語聴覚士を目指して
私が所属している医療法人社団永生会は、1961年に東京都八王子に建てた高齢者医療専門の個人病院を母体とする医療法人です。現在、永生会は所属する言語聴覚士も59名と比較的規模の大きな法人です。私はその中の広報連携・地域支援事業部という部門に所属しているのですが、そこでは主に東京都や八王子市から委託を受けて、高次脳機能障害の方への支援や相談を担当しています。
もともと言語学の分野に興味があり、大学生の時には文学部で言語学を専攻していたのですが、STを志した直接的なきっかけは大学3年生の時に受講した生理学の講義でした。その講義を担当されたのは非常勤の神経内科医の先生で、主に失語症に関してのお話をされており、その内容に強く興味を引かれたのです。調べていくうちに「言語聴覚士」という資格のことを知り、自分が大学生活で学んできたことを活かせる仕事だと感じたことを理由に、この仕事がしたいと思うようになりました。
しかし、当時STはまだマイナーな職業だったため、その旨を卒論担当の言語学の先生に話した時に「何ですか、それは?」と首をかしげられたことは記憶に新しいです。
当事者だけでなく、家族からの相談などあらゆる角度から対応していくために
主な業務内容ですが、担当している高次脳機能障害の方への支援や相談に関してはとても幅が広いです。「夫が脳出血で高次脳機能障害になって入院中なのですが、退院後のリハビリや職場復帰についてはどのようにしていったらいいのでしょうか?」というご家族からのご相談から、「10年前に交通事故に遭ってから、いろいろなところで働いたのに仕事が続かなくなってしまった。最近になって高次脳機能障害という言葉を見かけて、もしかしたら自分もそうなのかもしれないと不安に思っています」といった当事者からのご相談まで、さまざまな高次脳機能障害についてのご相談に対応しています。
基本はお電話でのご相談が多いですが、オンラインでのご相談や面談、ご自宅への訪問も行います。その他、施設への見学同行やお勤め先へ伺っての情報提供など、支援方法もさまざまですね。また、週に1回程度ですが、高次脳機能障害の方のグループリハビリなども担当することがあります。
高次脳機能障害・失語症就労支援に関する多くの課題に対して
前提として、高次脳機能障害や失語症を患う方は、身体・知的・精神障害の中でも圧倒的に人数が少なく、まだまだ世の中に知られていないのが現状です。特に高次脳機能障害の方の場合、普通にお話ししているだけでは障害があるとわからないことがほとんどです。そのため、周囲の人からもまったく問題ないと思われてしまうようなケースも多く、いざ仕事に取り組んだ時に記憶障害のため指示された業務を忘れてしまったり、注意障害のためミスを繰り返してしまったりすることで、本人も周囲の人も困ってしまうようなパターンが大変多く見られます。
高次脳機能障害は長い時間をかけて改善していくことは可能ですが、どうしても障害は残存していくものです。しかし、認識の違いから、会社の方からは「ゆっくりリハビリして、完全に治ってから仕事に戻ってね」と言われることもあり、仕事に戻ることは不可能になってしまいます。そういったケースを減らしていくためにも、周囲の方から障害についてしっかりと理解してもらうことは、特に大切なことだと感じています。
また、それと同様に大切なことは、当事者の方が自分自身の障害について正しい認識を持つということです。この点が大変複雑なのですが、高次脳機能障害の方は自分の障害について認識することがとても難しく、私たち支援者のアドバイスをどうしても素直に聞き入れてもらいにくい状況になることも多いので、工夫が必要になります。
具体的には、他の当事者にお会いしていただいて、その方から実際に大変だったことを聞いてもらうことなどが多いですね。こうすることにより、当事者本人に「この人は何も問題なさそうに見えるけど実際に大変な思いをしているのなら、自分もそうなのかもしれない」と思ってもらうことで、正しい認識と理解に繋がることもあります。
自分の仕事に意味はあるのか、葛藤し続けた4年間
前のお話にも繋がるのですが、高次脳機能障害のリハビリテーションは基本的にゆっくりと時間をかけて行っていくものです。しかし、仕事を始めてから最初の数年間は担当する患者さんの変化を感じ取ることができず、自分の仕事には意味があるのだろうかと思い悩むこともありました。患者さんの変化や改善を実感できるようになったのは4年目を過ぎた頃で、その頃からようやく自分の仕事に自信が持てるようになったと思います。
今では担当して15年目になる患者さんもいらっしゃるのですが、長期間同じ方に関わり続けることのできる現場ばかりではないので、この経験はとてもありがたく貴重なことだと感じています。
学生時代は虚しく感じた勉強も言語聴覚士になってからはモチベーションに
大学で言語学を学んでいた頃は、「これって一体、何の役に立つんだろう」と勉強することに虚しさを覚えるようなこともありました。しかし、STになってからは学んだことはすぐに仕事で役立ちますので、がぜん勉強に対してのモチベーションは上がりましたね。日々新しい知識を取り入れていく必要のある仕事でもあるので、新しいことを学ぶのが好きな人には向いている良い仕事だと思っています。
私もここ10年ほどはSTの分野にとどまらず、心理療法系・ソーシャルワーク系の仕事を続けています。自分の職種はSTですが、STの専門性に特化するだけでなく、時に作業療法士のように、時にソーシャルワーカーのように、時に親戚のおじさんのように役に立ちたいと思っています。いろいろな視点を持って、目の前の人の役に立つ存在になれることが自分にとって理想的ですね。
ある一日のスケジュール
Schedule-
09:00朝礼・メール・電話連絡など
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10:00~相談対応(電話)
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11:00~移動(都内の企業へ)
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12:00~昼休み
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13:00~職場訪問 復職前打ち合わせ
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14:00~移動
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15:00~事務所に戻り相談記録入力
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16:00~リハビリ会議
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17:00終業・帰宅
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