言語聴覚士インタビュー
子どもの言語発達に関するプロとして、常に「現状ベストな支援」を心がけています。
三木 江理奈 個別学習エイル、 小平市教育委員会、練馬区教育委員会、区立発達支援センター、育視舎視覚発達支援センター子ども1人1人の「ゆっくり、じっくり」を支えたい。
現在、読み書き障害などの子どもを対象にした民間の学習支援室エイルを運営しています。また、子ども発達支援センターや視覚発達支援センターでも、個別の検査やトレーニングを行っています。そして、そのような働き方とは違った形ですが、小・中学校へ巡回し、主に子どもたちの言語・コミュニケーション・学習についての先生方からのご相談に対し、アセスメント(集団・個別場面の観察、諸検査)と助言を行っています。
もともとは、千葉県浦安市の小学校で補助教員として勤めていたこともあり、その後、市内の園・学校への巡回相談を行ってきました。
心の底にあるのは子どもには1人1人のペースがあって、「教え導く」ことも素敵だけれど「寄り添う」ことも大切だということです。「ゆっくり、じっくり学んでいく子どもたちに寄り添いたい」「科学的・医学的根拠をもって、児童・生徒の言語学習を支えていきたい」というSTを志したときの思いに、いつも立ち返るようにしています。
「子どもを中心としたプロのチーム」の一員として、適切な環境を整えてあげたい。
文部科学省が「チーム学校」と掲げているように、先生方は学校教育のプロ、保護者は家庭生活のプロ、STは言語発達に関するプロと考えます。それぞれのプロの視点から子どもを観察し、情報を共有して子どもが安心して学べる環境を整えることが大切です。
とりわけSTは、子どもの社会生活を左右する重要な役割を担っている言語を扱うため、限られた時間の中であってもできるだけ多くの情報を収集し、適切な支援につなげなければなりません。
具体的には、まず発達段階や子どもの得意・不得意をできるだけ把握します。次に、子どもの「今の状況」から「将来に向けて、どのような力をつけていきたいか」を学校、保護者と一緒に考えます。そして、そこから学校と家庭(もしくは両方)で取り組んでいただきたいポイントをまとめ、わかりやすくお伝えするようにしています。
また、家庭生活と集団生活での子どもの様子や困りごとに対する本人と周りの認識には、多少なりともギャップがあるもの。先生方や保護者が疑問に感じていることがあれば、発達段階や障害の特性に照らしてわかりやすく説明し、より良い関わりが具体的にイメージできるような助言を意識しています。
フットワークを軽くし、積極的な関わりを。
STとして最もつらいことは、自分の力ではどうすることもできない場面に直面した時です。
例えば、子どもとしては既に精一杯であっても、子どもを想うが故に「まだ勉強しようと思っていないだけ」あるいは、「全然成長していない。希望を持てない」と、子どもと支援者間にズレが生じてしまうことがあります。しかし、年間1回~数回の巡回では、タイムリーに助言をすることができません。また、家庭の事情により送迎や受診ができないと、通級(通級指導教室)などの特別支援教育の場にスムーズにつながれないことがありますが、立場上できることは限られています。
このような状況の打開策として、リモート会議や少しの空き時間をフル活用して、担任の先生や保護者、管理職・特別支援教育コーディネーターの先生方とできるだけコミュニケーションを取っています。時には、東京都言語聴覚士会の勉強会、教育委員会の先生方や巡回相談員(心理士、作業療法士など)との連絡会などにも参加し、他の事例や地域の情報を積極的に得るようにしています。
いかなる環境でも、常に「子どもにとって現状ベスト」となる支援を模索しています。
STが学校現場にとって身近な存在になれば。
良い支援をするためには、相談対象の子どもについての情報はもちろん、子どもを取り巻く環境(保護者や兄弟姉妹、放課後等デイサービスや療育機関、学校行事や学習内容など)について、できるだけ幅広い情報を収集する必要があります。
しかしながら、さまざまな制約によって子どもと関わる時間が限られ、十分な情報収集・整理が難しいのが現状です。海外では“Educational ST”として学校に常駐しているケースがありますが、それが日本で実現するには、もっとSTの必要性を認識していただき、予算や人材の確保が整ってからでしょう。
今後、STが学校現場にとって、もっともっと身近な存在になれるよう前進あるのみ、です。
子どもの成長を糧に、現役STとして広く伝えていきたい。
STとして最も幸せを感じるのは、私の助言が実践につながったり子どもの成長が見えたりした時です。
巡回の際、担任の先生方から「そうか、明日から試してみよう」「来週、あの教材を使ってみよう」と前向きな言葉を伺えた時には、ひと安心します。また、私のアドバイスによって子どもたちに何らかの良い変化が見られた時には、「チーム学校」の一員として子どもの将来につながる支援ができたと胸がいっぱいになります。
私がこれから挑戦したいことは、現役STの立場からSTの必要性や学校現場の現状を広く伝えること。
教育・医療・福祉の行政区分を越えたサポートが必要な現場で、それぞれの領域を活かしたチーム作りの実践を重ね、まだまだ少ない「学校現場のST」の仲間・後輩を増やしていきたいと思います。
ある一日のスケジュール
Schedule-
10:15特別支援教育コーディネーター等、担当の先生と打ち合わせ
対象児童・生徒の情報を確認します
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10:25~集団場面の観察、あるいは個別場面での観察(簡易的なチェックを実施することも)
通常学級、特別支援学級、通級指導教室、特別支援教室など、あちこち移動します
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12:30~昼食・休憩
休み時間、給食準備や食事中の様子も観察します
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13:40~児童・生徒の観察
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14:25~フィードバックに向け、記録の整理
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14:45~対象児童・生徒にかかわる先生方とのカンファレンス
現在の状態像、先生方の相談のポイントを整理し、できる限り、今後の方針が見えるところまで話し合います
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16:00業務終了
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